すべてがFになる 森博嗣
私は10冊合本版で読んだ。
S&Mシリーズがまとめられていてお手軽だと思う。電子書籍では10冊まとまっていても重さを感じないのでシリーズが気になる人にはお勧め。四季シリーズだったり他にもシリーズがあったりするので、間違って違うシリーズを読んでしまうことは避けたいと思っている人にもお勧め。
すべてがFになる単体の方。他のシリーズはすでに買ってしまった方など、この話だけ読みたいと思っている人はこちらがいいと思う。
N大学工学部建築学科の萌絵と犀川がサークルのキャンプを行うために孤島である真賀田研究所へ向かう。もう何年も人と会っていない天才の真賀田四季博士に会いたいと、半ば強引に会いに行く萌絵だが研究所内部の密室で四季が殺されていた。凄惨な死体となった四季はなぜ殺され、誰が殺したのか。
ネタバレあり
確信的すぎるものはちょっぴりぼかしてます
以下感想
私はドラマから入ったので、その印象が強いが原作も面白かった。ドラマも面白かったので色々な角度から楽しみたいと考えている人は視聴してみることをおすすめする。綾野剛かっこいい。萌絵ちゃんからは犀川先生がこんな風に見えてるのかもしれないと思うとほんわかしちゃう。
ドラマは予算の都合もあったと思うが萌絵ちゃんがいかに富豪であるかも見てみたかった部分がある。資産家パワーで雑魚をなぎ倒す萌絵ちゃん、見たかった。ドラマは役者の方や演出家の解釈が楽しみの一つだと持っているので、他の人の感想を見ることが好きな私からすると、パワフルで少し庶民的な解釈の萌絵ちゃんは新鮮だった。私は深窓の令嬢が頑張って明るく振舞っているように感じたので感じ方の違いも面白い。
ドラマだと四季の死体の表現が鮮明に感じられて衝撃が強かったことが印象に残っている。手足がないことが文章よりも視覚だといきなり出てきてより衝撃を感じると思う。文章でしか表せない表現があるが映像でも同じだと思う。この衝撃は本を読んでいたとしても少なからず驚く場面だと思う。
また時代の流れを感じた。一つは大学生(未成年)が飲酒している描写。二つ目はめちゃくちゃ煙草吸うところ。煙草は今でも描写はあるかもしれないが如何せん大人は大体吸っている。私の周りに喫煙者が少ないこともあるのかもしれないが、誰しもが吸っている描写が新鮮に感じた。去年の2020年に喫煙の法律で飲食店での喫煙が変わったことが考えに影響しているかもしれない。身近で煙草の受動喫煙をする機会がかなり減った。皆がみんな吸っているので、読んでいる時は良い感じに煙草の煙臭さを感じられて没入感があった。でも萌絵ちゃんが煙草に憧れを感じている描写は今ではできないかなあと思う。
ただ飲酒には未成年でも寛容だったが、未成年が煙草を吸うことは止めていたのでここでも時代の流れを感じた。さらに少し前だったら未成年でも煙草をばんばか吸ってたんだろうなと思う。こうやって時代の流れを感じながら読めることが読書の楽しみの一つだと思っている。
また刑事さん達がコンピュータに詳しくない描写が今になると逆に新鮮に感じる。新型コロナウイルスが未だに世界中に広がっている中で、今は同じような年齢のおじさんたちがリモート会議などしている。作中で「ネットワークとは何だね」と聞いてる世代の人(厳密には違うけど)がZOOM会議などするようになるのかとデジタル化の普及に驚いた。研究所のセキュリティも、今ではちょっと気を使っている家庭では普通にあると思うのでデジタルの進化ってすごいんだなと感心した。
以前ドラマを見てきた時は自分の意識が足りてなかったのだが、結局のところ四季はずっと性的虐待を受けていたんだと今になってはっきり感じた。「実の叔父との子供を身篭ることがいけないことだと誰も教えてくれなかった」と供述していたが、その時点で14歳。すべて大人である叔父が教えるべきことであるし、もし四季からのアプローチであってもそこで諭すべきだった。新藤との子どもを産むことが幸せだと思っていた四季はそれ自体が虐待による洗脳状態であったと考えられる。100対0で叔父である新藤が悪いのだとやっと気づいた。四季は天才だが教えることはできた。教えた結果選ぶことと最初から選択肢に入っていないことは全く違う。今までも何となく新藤が悪いのだとは思っていたが、重大な犯罪であると感じられるようになり自分の意識が変わったと思う。文章だと伝わりにくいが嫌悪感や怒りなどが前回知った時より大きい。これには海外ドラマなどを見て性的犯罪に対する見方がいい方に変化したことがあると思う。日本の性犯罪に対しての対処や、考え方が緩かったり甘い部分に浸っていた以前の私から成長したなと感じる。
(良い悪いで語れないことだがアメリカの刑務所では小児性愛者はリンチされると聞いたことがある。リンチはよくないことだが、刑務所に入っている犯罪者でもこの犯罪はそんなに悪いと思われていることなのだと驚いた。)
何となく悪いと思っていた部分も、四季の両親を四季を使って殺したことが大きく占めていて、性的虐待については軽く考えていた部分もあった。正直流してしまっていたことだった。改めて今読み返して自分の価値観や考え方が変化したことを知れてよかったと思う。
ただ四季の両親が四季を悪いように言ったことは悲しいことだと思う。被害者に寄り添うことが出来たらよかったのだが。これは難しい問題で、専門家でもないので、何となく思うことだけれど、この感情の変化や、対応について思う事も時代の変化なのだろうか?喫煙や飲酒は身近な話だったので「ああ、時代が変わったな」とわかりやすかった。この犯罪に関して身近な問題だと考えられない今の状況は悪いのだろうか。幸いに私はこれらの犯罪に、身近な人が関わることもなく自分が巻き込まれることもなかった。だから身近な問題として考えられていなくてもよいのか。いいことはないと思うがこの問題について語れるほど知識を有しているわけでもない。少しでも被害者が減るような世の中になって欲しい思いだけある。
色々考えることはあるけどこの問題に対してここまで考えられるようになった「考え方の変化」は自分自身で驚いたし、よかったと思っていることだ。多くの知識を学んだことで自分自身がアップデートされていくことを感じられてよかった。
このシリーズの他に四季シリーズがあり、そのシリーズは四季の内面を描いた物らしい。それを読んだ時に今考えていることは丸きり違うことが出てくるかもしれない。そうしたら追記したいと思う。
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